2017年7月6日

網膜剥離の裏側で 〜(2)このまま旅を続けなければ意味がない

翌日彼女から連絡があり、私が決心したからか、エネルギーが変わったとのことだった。そして、行く手を阻む黒く強大な竜巻雲のような雲は本来は存在しないもので、私を含む集合意識の想念で出来上がったもののようであり、怖れも不安もないと決めればなくなる、と伝えてくれた。

彼女は、独自の方法でマインドのブロックを解除し、潜在意識の深い領域から人々をサポートするというギフトの持ち主なのだが、私が快適な旅ができるようにとブロック解除を試みてくれた。

ブロックのイメージは、黒く強大な竜巻雲のような雲だったが、解除イメージを見てみると、私の後ろに何百、何千という人達が現れ、雲は私の動きに合わせるように後退して行ったという。私が一歩前に出ると後ろの人達も一歩前に出て、それに合わせて雲が一歩分だけ後ろに下がる感じだったという。

私はこのイメージに感動した。私と繋がっている人々の顔が次々と浮かんできて、有り難くて胸がいっぱいになった。実際、これまで夜寝る前に瞑想をしていると、私は長い水平ロープのようなエネルギーを感じることが何度かあり、自分を中心にして左右にたくさんの人々が並び、その繋がりのエネルギーロープを一緒に握っている感触がある。気づいていようといまいと、私はたくさんの人々や存在と常に繋がっている。そして、それは私だけでなく、誰もがそうなのだ。

彼女が見たイメージの中の黒い雲は、怖れという想念の象徴なのだろう。集合的な想念は巨大な竜巻雲にもなるが、一人の人が臆することなく自分の道を一歩前に進むとき、繋がった意識の領域で同時に私たち全員も一緒に一歩前進し、雲と一歩分だけ距離ができていく。私はこれをはっきりとイメージでき、そのイメージは私に力を与えてくれた。私を通して彼女が見たイメージは私にとって意味をなすもので、パワフルなメッセージだった。

しかし、不安というものは消えてもまた現れ、心に隙間があろうものなら一気に押し寄せてくる。もちろん、私は旅を中断して、一人で日本に帰国することも考えた。飛行機の空席をチェックすると一席だけ残っており、翌日東海岸へ発つことになっていたが、一旦東海岸へ行ってしまうと日本がますます遠くなるため、帰国するならこのタイミングだった。

ところが、ハートに意識を向けると「このまま旅を続けなければ意味がない」という言葉が返ってくる。それは、そのためにここに来ているのだという意味をも暗示している。ハートはとても穏やかで、揺らぐ私に教え諭す賢人のようだった。

さらに、私の頭の中に何度も何度も浮かんでくるものがあった。それは昨年読んだバイロン・ケイティ+スティーヴン・ミッチェル著の「タオを生きる — あるがままを受け入れる81の言葉」の第3番「人生を水のごとく流れるままに任せれば、あなたはその水になる」での光景であった。

その光景とは、フックス角膜内皮変性症という治療法のない症状により朝は目が見えなくなったケイティが、宿泊先のホテルで手探りで浴室まで行き、歯磨き粉と歯ブラシを手探りで見つけて歯磨きをし、蛇口の湯やシャワーカーテンの位置、シャンプーの量など、ひとつひとつ手で感触を確かめながらシャワーを浴びるというものだ。

ケイティはこう言う。「あらゆる苦しみはメンタルなもので、体や状況とは関係がない。痛みが強くても全く苦しまないということは可能です」と。そして、彼女は目が見えない人が何を知っているのか知りたいというエキサイティングな気持ちでいるとまで言っている。(その後、ケイティの夫が情報を得て、彼女は移植手術を受けて目が見えるようになった)。

バイロン・ケイティは、ストレスや怖れから解放する強力なツール「バイロン・ケイティ・ワーク」の創始者であるが、今目がかすんでいる私は、まるで彼女が言っていることを自分で確かめたいとでも思っているかのように、私の頭の中には「その考えがなければ、あなたはどうなるか?」という彼女の問いかけが何度も浮かんでくるのであった。

私の中から考えがなくなると、この右目を取り巻くあらゆる不安、怖れ、それに基づく「起こってもいないこと」が消える。すると後に残るのは、ただただ穏やかに呼吸している平和な状態だけなのである。

成るようになる。大河の流れのような、その時点では理解できないレベルのものがある。私はその流れに任せよう。

私はこの時ほど、マインドとハートの2つの領域の違いをはっきりと認識したことはない。黒い雲に覆われた怖れの領域と、何もない青空の領域。境界線の真上に浮かび上がって下を見ると、どちらを選ぶかで全く世界が異なることが一目瞭然である。

それは怖れを否定することではない。怖れがそこにあると認識することと、思考がそれに息を吹き込んで怖れを増大させるのとは違う。怖れるならば、その瞬間に、より大きな存在としての自己と繋がっていたロープが切れて、怖れはさらに怖れを呼び、奈落の底へと真っ逆さまに落ちていくが、その怖れを作り出している「考え」から意識的に離れ、ハートに戻ると、一瞬でストレスのない平和な場所へと移動する。

私はそのことを身をもって体験したかったのだろうか?

私は目を閉じて、ガイド霊たちにお願いした。「わかりました、私は旅を続けます。黒いろうと状の空間の奥まで行ってみます。その代わり私を助けてください、絶対に守ってくださいね」

すると、目には見えない3人の存在たちが「もちろん当たり前じゃないか、いつも私たちがいる、任せなさい」と言っているのがはっきりと伝わってきた。それも、この3人はものすごく乗り気で、前のめりになって私の顔にくっつきそうになっているので、私はおかしくなって笑ってしまった。

目の中に砂つぶがあり、白っぽくかすんだ状態である以外、私の体調はすこぶる良く、食欲が旺盛で何を食べても美味しい。途中原因不明の激しい下痢が数日続くことがあったが、浄化されていくかのように、体がどんどん軽く爽快になっていくのだった。